イザベラ・ディオニシオ

ボッカチオの作品の中で、いちばん有名なのは『デカメロン(10日物語)』だ。これは、女性7人と男性3人の若者が、ペストが蔓延する都市から離れて郊外にある別荘に籠り、1日に1人ずつ10の物語を話して10日間語り合うというリレー小説である。 「Umana cosa è avere compassione degli afflitti (苦しむ人を思いやることをできるのは、人間だけだ)」という言葉で始まる『デカメロン』は、単に娯楽のために書かれた作品にとどまらず、恐怖や偏見に満ちた陰気な空気への反動であり、生命力にあふれる社会を再構築するために織りなされている物語として成り立っている。 高尚なところが何ひとつなく、すべての話が当時の日常に根を下ろしている。世俗に生きている人々が非常にリアルに描かれ、ルネサンスの理念である「人間中心の精神」が文学を通して見事に実現されている。 この作品を通じて、ボッカチオが最も伝えたかった2つのテーマを改めて紹介しよう。1つは、どんなに苦しくても、どんなに不安でも、どんなに窮地に陥っても、それはいずれ終わる、ということ。もう1つは、この作品の読者として想定されている淑女の皆様に向けたもので、いかなる場合でも愛を諦めない、ということだ。 他人に対する思いやりを忘れないことと愛すること、平常心を保つことと希望を持つこと、ボッカチオがつづったその教訓がなるべく多くの人々に届いてほしい。